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オリが見えない幼なじみに説明させて分かった、説明役の選びかた

四十秒のオリ図鑑

『四十秒のオリ図鑑』は、町にひそむ不思議な生きもの「オリ」を集めて、図鑑を埋めていくRPGです。アドベンチャーゲーム『四十秒の交差点』のスピンオフで、舞台の町も登場人物も本編から引き継いでいます。同じ月曜日が繰り返される世界で、繰り返しのあいだにたまった時間の澱(よどみ)が、オリという生きものの姿になっています。本編とちがうのは、そこだけです。

物語を書くとき、いちばん気をつけているのは「誰が何を知っているか」です。それを一度、自分で崩してしまいました。

オリが見えない幼なじみに、オリの話をさせていた

千夏は主人公の幼なじみで、本編にも出てくる登場人物です。スピンオフに千夏の出番を作るとき、ひとつ大きなルールを決めました。この町でオリが見えるのは、主人公とクラスメイトの明日香の二人だけです。千夏には見えません。二人がオリの話をしていると、千夏だけが話に入れないことがあります。その少し置いていかれる感じが、本編での千夏の立ち位置ともつながっています。

みなとまちという町のマップに、「いちば」というエリアを足したときのことです。この町まで進むと、野生のオリに勝ったときに「かいがら」というアイテムが手に入るようになります。いちばでは、これをほかのアイテムと交換できます。その説明を、ちょうどその場にいた千夏に言わせました。

かいがらは オリとの勝負のあとに おちてるんだって。ひろって きなよ!

会話のテンポもよく、書いたときは何も気になりませんでした。翌日に場面を読み返したときも、最初に引っかかったのは「勝負」という言葉だけでした(これは次の節で書きます)。そこだけ直して、数分後にようやく気づきました。千夏にはオリが見えません。聞いた話という形でも、オリとの戦いのあとにかいがらが落ちる、という仕組みを千夏が知っていることになります。それでは、千夏だけが置いていかれる感じが消えてしまいます。

説明は千夏の台詞から外して、主人公が自分で気づく地の文に移しました。いまの場面では、千夏はこう言うだけです。

かいがら、そのへんに けっこう おちてるらしいよ。ひろって きなよ!

そのあとに、主人公の地の文が続きます。澱がほどけたあと、足もとに小さく光るものが残ることがある。「千夏には、それが ただの貝がらに見えているらしい。それでいい。」

1か所直しただけでは不安だったので、シナリオの中で千夏が話す台詞を全部抜き出して、通して読み直しました。35行でした。

ほかは大丈夫でした。「オリ」という言葉を口にする台詞は2行だけで、「あんたの、オリ?ってやつで」と「は? オリ?」です。どちらも、よく分からないまま言葉だけを口にしている言いかたなので、見えない人の台詞として合っています。

一度だけ、千夏がオリの光に気づく場面もあります。それでも千夏に見えたのは光だけです。「あんたらが見てるの、そういうやつなんだ」と言って、それ以上は聞きません。見えない側のままでいる、という線は守れていました。

「勝負」は人どうしにしか使わない

最初に書いた千夏の台詞には、もうひとつ問題がありました。「オリとの勝負」の「勝負」です。

この台詞を直すときに、「勝負」という言葉は人と人のあいだでだけ使う、と決めました。明日香と手持ちのオリを戦わせるのは勝負です。野生のオリとの戦いには使いません。

野生のオリと戦えるのは、信号が青のあいだの40秒だけです。そのあいだに決着がつかなければ、オリは「澱にとけて消えた」と出て、いなくなります。プレイヤーの目的は、相手を負かすことより、消える前に図鑑へ記録することです。勝ち負けを競う戦いではありません。

そもそも千夏には、オリとの戦いそのものが見えていません。「勝負」かどうかより先に、見えないはずの場面を千夏が語っていたことのほうが問題でした。

この記事を出す前に、シナリオを「勝負」で検索し直しました。出てきたのは、明日香との戦いと、千夏が持ちかける釣り大会の場面だけで、どちらも人と人の勝負です。

プレイヤーが知っていることも、条件にする

「誰が何を知っているか」は、登場人物だけの話ではありません。プレイヤーが何を知っているかも同じです。

本編『四十秒の交差点』には、明日香についての大きな仕掛けがあります。スピンオフでは、これを一度も言わない方針で作ってきました。本編を遊んでいない人にも、ネタバレなしでオリ集めを楽しんでもらえるようにするためです。伏線は少しだけ置いてあります。明日香から受け取ったオリのノートに、二人分の筆跡があること。明日香が、オリの名前をこちらより先に知っていること。気づく人は気づくはずです。気づかなくても、遊ぶのに困ることはありません。

この方針が壁になったのは、最終マップを作るときでした。物語の最後の場面を書くなら、仕掛けに触れないわけにいきません。

そこで、最終マップだけは本編をクリアしていないと行けないようにしました。本編をクリアしていない人がバス停で最終マップを選ぶと、「バスは 来ない」と表示されて、本編への案内に切り替わります。ここまで来た人は、全員もう仕掛けを知っています。だから最終マップでだけ、この方針を外しました。

最終戦の前の場面で、明日香は主人公を、本編で特別なときにしか使わなかった呼びかたで呼びます。本編をクリアした人にだけ意味が通る一行で、書いていていちばん緊張したところです。

説明役は、その場にいるかより、知っているかで選ぶ

説明が要る場面では、その場にいる人物に話させたくなります。会話が動いて読みやすくなるからです。けれど物語では、誰が何を知っているかが先に決まっています。今回の失敗も、説明役を「その場にいたから」で選んだことから始まりました。

説明の台詞を書くときは、言わせる人物を決める前に「この人はそれを知っているか」を確かめる。知っている人物がその場にいなければ、地の文で主人公に気づかせる。今回の直しも、この形にしました。言葉にも、「勝負」のように誰と誰のあいだで使うかを決めておくと迷わないものがあります。

最終マップの件も、同じ考えの延長です。誰が何を知っているかを、場面に入れる条件にする。知らない人に見せたくない場面は、知っている人しか入れない場所に置けば書けます。

もうひとつは、1か所見つけたら、同じ人物の台詞を全部並べて読むことです。場面の流れの中で読むと、会話のテンポに押されて、設定とずれた1行も自然に読めてしまいます。今回の千夏の件も、場面の流れで読んだときは見落としていました。同じ人物の台詞だけを並べると、その人が知らないはずのことを言っている行が浮いて見えます。今回は、ほかに無いことを確かめられました。物語を書く人なら、人物ごとに台詞を抜き出して、通して読んでみてください。